the End of AnimeLife

『あまちゃん』感想文エッセイ同人誌を出しました http://eal.hatenadiary.jp/entry/amaj

GMTのモデルは

 「あまちゃん」東京編の前半では、アキがアイドルとしてやっていけるのかどうかに注目が集まった。水口琢磨にスカウトされて上京したアキは、まだデビューも決まっていないGMTというアイドルグループに所属するのだが、活動はほとんど行われず、人気アイドルグループ「アメ横女学園芸能コース」(通称アメ女)の二軍扱いで、雑用ばかりさせられていた。
 モーニング娘。を有するハロプロのプロデューサーつんく♂が、「あまちゃん」についてコメントしていた。主人公のアキが可愛いから人気なのだろう、アキを演じる能年玲奈のアイドル性に期待する視聴者が多いのだろうと前置きした上で、「演出もたくみ。現実のイベントをパロディーにすることで、つい現実と演出をごっちゃにして、アキが売れるかどうかにハラハラしちゃう。現実はあんなに甘くないけどね」(朝日新聞、2013年7月23日 http://digital.asahi.com/articles/TKY201307220413.html)と分析していた。
 ここでつんく♂の言う「現実はあんなに甘くない」とは、何を指すのか。新聞掲載の時点ではまだアキはGMTを辞めていないので、おそらく、GMTのメンバーに選ばれたことを「甘い」と感じているのだろう。なぜ自分がそう思うのかというと、彼がハロプロのメンバーを選ぶ基準が厳しいからだ。現在でもハロプロのメンバーの選考はつんく♂の裁量によるところが大きく、その様子はインターネットの動画サイトなどで報告されているので、ハロプロファンである自分は、彼がいかに考え抜いてメンバーを選んでいるかということを知っている。どうせアイドルなんてお遊びだろうというような、いわゆるアイドルの固定概念を覆し続け活躍するハロプロとは、彼の人選のセンスによるところが大きいと、ファンである自分は確信している。そして、彼が「甘い」と感じたのは、苦労する姿がドラマ内であまりクローズアップされていなかったからだろうと、自分は感じた。これは自分が以前に出した同人誌『あまQ』でも書いたことだが、アキが、ボーカルやダンスのレッスンで先生から厳しく指摘され、アキ自身がそれ(表現者として未熟であること)を悔しいと感じるというような描写は、「あまちゃん」では一切なかった。
 そのような体験を経て表現者として成長するのがハロプロのタレントであり、「あまちゃん」では、ハロプロのようなアイドルイズムをなぞってはいなかった。かつてのアサヤンの物語を「あまちゃん」では再現していなかったのだ。それが、古くからのハロプロファンとしては不満であったのだが、自分はすでに、「あまちゃん」ではそれを描かなくとも十分に楽しめると感じている視聴者となっていたので、自分にとって問題ではなかった。
 では、GMTは、ハロプロ以外の何かを模倣していたのだろうか。
 東京編に入る前に、アキがGMT47というアイドルグループに加入するという宣伝告知があったし、スカウトマンの水口もこの名を口にしていた。このグループ名は、どうみてもAKB48を想起させるものであったはずだし、アメ女やGMTのメンバーの人気投票イベントもAKB総選挙の真似に違いないだろう。プロデューサーの新巻も秋元康に似せた風貌であった。
 「あまちゃん」では松田聖子などの往年のアイドルが憧れとして描かれる。一方でアメ女やGMTを使った近代型アイドルの描き方は、皮肉めいたものであったのかもしれない。GMTメンバーが行う定型の自己紹介(これは近代型アイドルの特徴のひとつだ)も、「あまちゃん」では「やらされてる」もの、パロディとして扱っていた。アメ女トップの有馬めぐが絵に描いたような性悪でプライドの高い人物だったり、当世の恋愛スキャンダルによる脱退などを取り入れた描写もあった。GMTメンバーの宮下アユミは、恋愛を理由に芸能活動を辞めてしまった。
 先の新聞記事でつんく♂が言う、パロディにした現実のイベントというのは、AKB総選挙のことだろう。「あまちゃん」の人気投票イベントでは、アキは落選となり、上位メンバーの辞退による繰り上がりによって最下位としてギリギリ残るという結果だった。
 さて、GMTのモデルは、AKBだったのだろうか。自分は、そうではないと考える。
 AKBをなぞるのであれば、頻繁に握手会などのイベントが行われるはずだし、ドキュメンタリー映画を製作したりしたはずだ。しかし実際には、プロデューサー新巻は、GMT起死回生のために、なぜか鈴鹿ひろ美のデビュー作のリメイク映画を撮る。GMTの握手会は「あった」という程度で、その様子、例えばファンとの交流などがドラマ内で詳しく描かれることはなかった。もし本当に必要であれば1話15分すべてそれに使ってもよかったはずだ。恋愛スキャンダルでアメ女を脱退した有馬めぐは、人気トップでありながらアメ女に戻ることもなく二度と画面に現れなかった(人気メンバーであればスキャンダル後にそのことをネタにして復帰するのがAKBの常套だ)。
 GMTは47ではなくGMT5としてデビューした。なぜ47ではなかったのか。要するに、「あまちゃん」でのAKB48からの引用は、ごく表層的なものでしかなかったのだ。AKBのようなものを再現しようという意図は「あまちゃん」にはみられなかった。握手会を丁寧に描かなかったのは、それが不要だったからだ。「あまちゃん」を熱心に見て最終回を見終えた視聴者が、AKBと関連付けて思い出すことは、おそらく何ひとつないだろう。
 とは言うものの、アメ女やGMTには既存のアイドルの意匠が取り入れられていた。自己紹介や歌唱パフォーマンスを「ももいろクローバーZ」のそれに近いと感じた視聴者もいただろう。また、GMTが谷中の合宿所で貧しいながらも和気あいあいと暮らす様子をみて、NHKで放映されたアリス十番というアイドルグループのドキュメンタリー(ドキュメント72時間「“地下アイドル”の青春」、NHK総合、2013年6月21日放映)を参考にしたのではないかと、親しい友人は語っていた。
 ちなみに「ももいろクローバーZ」は、元々は「ももいろクローバー」であり、2011年に現在のグループ名に変更したのだが、アキとユイのユニット「潮騒のメモリーズ」も再結成時に「潮騒のメモリーズZ」に改名した。